フェルナンド・アラバール『戦場のピクニック』フェスティバル

鮭スペアレ

作/フェルナンド・アラバール
構成・演出/中込遊里

撮影:塚田史子

『戦場のピクニック』上演にあたって高らかに書いたご挨拶

フェルナンドアラバールの「戦場のピクニック」に最初に出会ったのは、大学3年の時だった。加藤直先生の実習で取り上げられたのであった。

大学時代というのは、どうしてああもひねくれていてカッコつけてて不勉強なのだろう。戦場のピクニックの面白さなぞ何も解らず、ただ「古臭いバカバカしい脚本だな」とか「ふーん、これが昔の不条理劇か」とか、鼻をほじりながら教室のすみにあぐらをかいていたのであった。数年経ったのち、本気でその作品を演出することになるとも知らずに。

さて、不勉強を後悔しても過去には戻れぬ。腹を据えて取り組むべきは、出会い直した戦場のピクニックを「いかに料理するか」。40分という指定の時間に収まれば、脚本の言葉を変えても、再構成しても良いらしい。

鮭スペアレは音楽劇を作っているので、まずは、音楽劇として構成することから始める。ウタイという語りを入れるのが鮭スペアレの手法なので、原作では登場人物たちが喋っている台詞のいくつかをウタイに語らせた。そして、全部台詞を入れると1時間超えてしまうので、台詞は思い切ってカットした。

その中で、私がこだわったのは、脚本にできるかぎり忠実であること。そうしないと、戦場のピクニックという既製の脚本を、普段は完全オリジナル台本を演じている鮭スペアレで上演する意味がないように思えた。だから、台詞をカットするのは正直辛かった。

もうひとつこだわったのは、生演奏の楽団に、すべて「楽曲」で演奏してもらうことである。本作品に出てくる音響効果はふたつだ。戦場の爆撃と、レコード。その両方とも、効果音ではなく楽曲で表すことを音楽家に依頼した。

さらに、役者には、脚本上には指定のないキャラクターで演じてもらった。それは、ご覧になればわかって頂けると思う。

私が役者と演奏家にそれらを求めた理由は、本作品に出てくる「戦争」を、「社会/他者」との戦争ではなく、「対自身」の戦争として捉えたからである。つまり、「自分自身との戦い」だ。

私たちはなぜ生きるのか。社会に翻弄されながら、他者と自分をいつも比べながら、ちょっとした出来事に一喜一憂して、いつ死ぬともわからぬ毎日を一歩一歩歩んでいる。

私たちの毎日の戦いは、国と国の、武器を用いた戦争よりも、はるかに苦しくはるかに真摯だ。そのことを本気で捉えれば、人間そのものを前にして、武器の戦争の、なんとちっぽけで愚かなことよ。

アラバールが、自身の経験を踏まえ、戦場でピクニックをするというシュールかつ皮肉な世界を描いたのは、そんなひたむきな「反戦」の気持ちがあったからなのかもしれない。

鮭スペアレ初の既製脚本上演。初めての出会いに感謝して。何度目かの出会いに感激して。

劇場まで足をお運び下さった皆様方、誠にありがとう存じます。戦場のピクニックフェスティバルでお会いすることができて、大変うれしく思います。

どうぞ最後までお付き合いをお願いいたします。

中込遊里

公演情報

日時

2013年4月29日~4月30日

構成・演出

中込遊里

音楽

五十部裕明

出演

ザポ:林みなみ
ゼポ:宮川麻理子
テパン氏:清水いつ鹿
テパン夫人:水野絵理奈
衛生兵1:片ひとみ
衛生兵2:速水里奈

荒井亮祐(guitar)
千原和樹(guitar)
永易司(guitar)
小林寛(percussion)
安部芙美子(per&key)

松田マキ(a.sax)
遠藤綾子(a.sax)
冨岡峻佑(a.sax)
藤井美香(a.sax)
土方優菜(a.sax)
クァンデ(t.sax)
鈴木遥(clarinet)
下路詞子(clarinet)

中西憲一(euphonium)
佐々木邦夫(mandlin)

五十部裕明(bass&key)
中込遊里(ウタイ)

スタッフ

衣装・小道具:清水いつ鹿/水野絵理奈