『幽玄音楽劇 ロミオとヂュリエット』岩手県一関公演

鮭スペアレ

ひいらぎ演劇プロデュースvol.2招待作品

作/ウイリアム・シェイクスピア 訳/坪内逍遥
構成・演出/中込遊里 音楽/五十部裕明

撮影:木村護

演出挨拶/物狂いのロミオとヂュリエット

一関のみなさま、お初にお目にかかります。鮭スペアレと申します。

私、中込遊里は、鮭スペアレで演出と主宰を務めています。学生時代に旗揚げして、来年2015年で、劇団は10周年を迎えます。この記念すべき折に、一関で初めて公演を打つことができて、大変有りがたく思っております。

鮭スペアレの出身地・東京には、300近くの小さな劇場があります。これは、公共ホールや大劇場をのぞいた数です。我々のような若手の演劇人たちが、代わる代わる、毎週絶えることなく公演を行っています。

しかし、それらの演劇人たちが、若い内だけではなくて何十年経っても演劇を続けているかどうかは定かではありません。

演劇を続けるのは大変です。演劇は、すべて人力でできています。機械を使って効率化することはできません。役者もスタッフも人ですから、毎日コンディションが違います。ライブで行う演劇は、たとえ同じ演目であったとしても、お客さんの生の反応を味わいながら、日々変わっていきます。

演劇を考えることは、すなわち、人を考えることにほかなりません。機械では測れず、非効率で、時には気分で変わる世界を、豊かに築いていこうとするのが演劇です。演劇の絶対も答えもありません。

だからこそ、本気で続けるのはなかなかに難しくもありますが、そのぶん、こんなに面白いことはない、と思います。

「ロミオとヂュリエット」は、400年以上前に書かれた戯曲です。ヨーロッパから日本に渡り、こんなに長い間続いているのは、ちょっと驚きです。演劇はもちろん、映画や漫画でも多く取り扱われ、「ロミオとジュリエット検定」なる書籍まであるそうです。先日、とある高校生に聞いたら、「ハムレット」もシェイクスピアも知らないけれど「ロミオとジュリエット」なら知ってる、という答えが返ってきました。

ロミオとジュリエットの何がそこまで魅力的なのだろうか。その興味から、本作品を稽古してきました。恋とは思い込みの力に他なりませんが、その思い込みで、命を棄てるまでいけたら、本当に大したものだと思うし、普通なら、いくら惚れた人だとはいえ、そのために死ぬ のは躊躇するところを、何の迷いもなくズバリと自死するのですから、これは大層珍しい二人です。憧れちゃうくらい。

ところで、シェイクスピアくらいトラディショナルな日本の演劇に能楽があります。能楽の創始者といわれる世阿弥は、「物狂い」という言葉で演技を構築していたそうです。

狂うというと、悪いイメージがどうしても浮かんできますが、物狂いは違います。何か強く心動かされることが起きて、心が乱れたり錯乱したりして、普段は隠されている珍しい状態を舞台上で表現することが物狂いの面白さです。

「ロミオとジュリエット」が400年経っても世界中で上演され続けているのは、恋とか、家族争いとか、私達も十分に共感できるテーマだからというだけではなくて、彼らの執念が物凄いからなのではないでしょうか。人間はいかに狂えるか。人間はいかにエネルギッシュか。それが見たくて、私は、演劇をしているのだと思います。

本企画に招いて頂いた二宮彩乃さん始め、一関では、たいへん多くの方々にお世話になりました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。この出逢いに感謝して。千度も萬度も、御機嫌よう。

2014.11 中込遊里

公演情報

日時

2014年11月22日~11月23日

場所

ガレージホール(岩手県一関市田村町)

演出

中込遊里

音楽

五十部裕明

出演

ロミオ/林みなみ
ヂュリエット/清水いつ鹿
ベンヴォーリオ・マーキューシオ/田中奈美
乳母・カピューレット主人・同夫人・チッバルト・パリス/根岸由季
ウタイ/葉湖芽・飛山真利子
Violin/弦巻都
Viola/久保山有造
Bass/上野太郎
Utai/中込遊里

スタッフ

演出助手/角智恵子
照明/南香織
衣装/服部瑠美
美術/北山聖子・樋口真惟子
宣伝美術/有布
撮影/木村護
制作/田村いろは
映像編集/宮野光輝