第5回公演『彼』

ひとりで暮らす小さな部屋で、テレビを見ながらビールを飲むとき、彼のことを思い出す。
机に向って教科書を広げ、携帯電話をいじりながら、彼のことを思い出す。
仕事や家庭のストレスを、女友達と語り合う間に、彼のことを思い出す。

彼は跳ぼうとし、わたしはそれを受け止めようとする。温かく、深い懐で。
いや、そうじゃない。

わたしはもっと度外れた非情さで、彼を貶める。生涯傷跡が残るほどに。
いや、そうじゃない。

わたしは彼が彼であることをそのまま認め、その横顔をじっと見つめる。
わたしの中にぽっかりと空洞を作りながら。
その無限の深さに、彼がたちうちできなくなるほどに。

・・・いや、そうじゃない、本当は。

わたしの欲や、大人らしい気配りや情けは、彼の前で形を失い、その瞬きは、どんな男でも見透かせない、女の空洞を照らし出し、そこを光でいっぱいにしてしまう。

その突き刺すような輝きに、わたしがたちうちできなくなるほどに。

作・演出

中込遊里

上演日時

2009年3月19日~3月22日  全6回公演

会場

恵比寿BOX ISLAND

出演

謎の女:有布
中学校の先生:清水いつ鹿
勉強ができる中学生:宮川麻理子
元気な中学生:中込遊里

スタッフ

作・演出:中込遊里
宣伝美術:有布
制作:大村みちる