STAGE 過去公演
物狂い音楽劇『リヤ王』
作
ウィリアム・シェイクスピア
訳
坪内逍遥
構成・演出
中込遊里
音楽
五十部裕明
コンセプト
私の祖父は88歳で亡くなったのだが、そのボケていく姿、老いていく姿はなかなかに神々しいものがあるな、と思った。たぶん、死に近づいていくということは人知を越えた何かどこかにたどり着くということで、「ああ、おじいちゃん、私の知らない世界に行くんだな」という遠さが神のごとしと感じたのだろう。
一方、そのたどたどしさには胸を打たれた。病室で、車いすの祖父の髪の毛が白くて細くてポヤポヤで、「小鳥の巣みたいだね」と言ったら隣にいた母が爆笑していた。こういうことに笑えるのは家族だからだな、と思った。亡くなる3日前くらいのことだった。
「リア王」も、王様だろうが古く遠い世界の出来事だろうが、変わらないはずだ。人は老いる。そして死ぬ。誰でも、いつでも、どこでも。そのことにきっちり真正面から向き合うのは多忙な日常では結構難しいから、演劇をする。
高齢化社会がこのまま進み社会のバランスが保たれなくなると人の悪い面ばかりが目立ってくることもあるだろう。諍いが起こりやすく、社会全体が苛々し、人は傷つけあうかもしれない。
演劇は、他者の過去の言葉を今生きる人間に宿し、「そこにない」ものをあたかも「そこにある」かのごとく思い込むことで、他者の人生を疑似体験する場だ。
劇世界において他者とは死者だ。シェイクスピアも、王リアも、実態のない幽霊となって舞台に現れる。私が舞台に乗る時いつも身体の中を幽霊が流れていく。その幽霊に身を委ねる。そうして彼らの言葉を聞く。
現実世界が苦しく感じる時、演劇の場で他者の言葉を聞けば、人間はこれほどに幅広く豊かなものかと我々は気付く。
今、私たちはリアの人生を体験し、そこから何を発見するだろうか?家族とはどんな存在か。
老いは幸福には繋がらないのだろうか。人生の幕引きの理想の形は何なのだろうか(それがあるとして)。
初めて能舞台で上演する。新作能ではない。現代劇を俳優と創る。歴史深き能舞台に漂う無数の幽霊たちは、今を生きる私たちに、厳しく優しく語りかける。
中込遊里(東京公演 パンフレットより)
【東京公演】
上演日時
2020年2月11日 全3回公演(上演時間約75分)
会場
出演
リヤ王:葵
阿呆:一瀬唯
ゴナリル:田中孝史
リーガン:若尾颯太
コーディーリャ:宮川麻理子
グロースター:水上亜弓
エドガー:上埜すみれ
エドマンド:清水いつ鹿
ウタイ:フルハシユミコ
ウタイ:中込遊里
演奏
バイオリン: 中條日菜子
パーカッション:五十部裕明
スタッフ
ドラマトゥルク:宮川麻理子
美術:北山聖子
衣装:清水いつ鹿・箕浦妃紗・田中麻里
照明:植村真
舞台監督:林周一(風煉ダンス)
写真撮影:bozzo
映像撮影:山縣昌雄
録音:上埜 嘉雄
宣伝美術:上埜すみれ・水上亜弓
制作:片ひとみ(鮭スペアレ制作部)
共催:CHABOHIBA HALL(公開リハーサルのみ)
協力:たちかわ創造舎
風煉ダンス
時田光洋
津村禮次郎
砂川曜平
西村佳弥乃
助成:芸術文化振興基金
【横浜公演】TPAM フリンジ参加
上演日時
2020年2月9日 全2回公演(上演時間約75分)
会場
公開リハーサル
上演日時
2020年2月2日 全1回公演(上演時間約45分)